Abstract

ヴァージニア・ウルフ『波』の第5セクションでは、作中で独白をする六人の登場人 物のうち、ネヴィル、バーナード、ローダの三人のみが登場する。バーナードとネヴィ ルは幼少期からそれぞれ物語の語り手と詩人としての自覚を持っているが、残りの一人 であるローダに関してはそのような記述はない。英雄的な存在であるパーシヴァルの死 の知らせがもたらされる、この作品のクライマックスといえるセクションに、ローダが 登場している理由を考える。ウルフ自身の言葉によれば、書くために必要なのは衝撃を 受け止める能力であるという。ローダは第5セクションにおいて、パーシヴァルの訃報 と劇場で耳にした歌声により世界の真実について啓示を受け、そこに見えた図形を言葉 で表すことで衝撃を受け止める能力を持っていることを証明する。しかしローダ自身は この啓示の体験について十分理解できていなかったため、パーシヴァルの死の意味や歌 声の重要性を最終セクションになって理解するバーナードよりもずっと早く真実を見抜 くことができていたにもかかわらず、彼女はこの能力を一時的にしか手にすることがで きず、衝撃に耐えきれずに最終的に自殺することになるのである。

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