近年の鉄道車両は軽量化や構造の簡素化が進められており,高速化による速達性の向上,省エネルギ,低コスト化,地盤振動低減などに貢献している一方,それにともなって車体の上下方向の曲げ振動(以下,車体曲げ振動)が顕著に発生する傾向がある.このような車体曲げ振動は人間が敏感な10Hz付近の周波数に発生することが多く,乗り心地向上の観点から低減対策が求められる事例が増えている.これに対して筆者らは,ピエゾ素子とこれに接続した外部電気回路(以下,分岐回路)を組み合わせた制振手法に注目し,鉄道車両の車体曲げ振動低減への適用をめざして開発を行っている.本報告では,素子の車体への具体的な取付方法の検討,および実用を考慮した分岐回路の設計を行い,在来線通勤車両相当の実車体を用いて定置加振試験を行った結果について報告する. ピエゾ素子の車体への取付方法としては,素子をあらかじめアルミブロック製治具に接着したユニットとし,車体にはボルトにより車体に固定する方法により,脱着可能な構成を採用した.分岐回路は,インダクタと抵抗の直列接続(L-R回路)および負の値を持つキャパシタと抵抗(負性C-R)回路を用い,L-R回路は受動素子のみで構成できる巻線コイルにより,また負性C-R回路については,特性の一部を電子回路を用いて仮想的に実現する手法により実装した 定置加振試験は,在来線通勤車両相当の軽量ステンレス車体(図A1)を,動電型加振器により床下から上下方向に加振することにより実施した.質量約10.7tの車体に対して,58kg(質量比0.55%)の制振ユニットを車体に取付けて行った定置加振試験結果を,図A2に示す.グラフの横軸は周波数,縦軸は単位加振力あたりの床上中央付近における加速度の周波数応答であり,両者とも素子による制振効果が現れない電極短絡時の固有振動数における値で正規化している.黒線が電極短絡時,濃灰線,薄灰色線はそれぞれ分岐回路としてL-R回路,負性C-R回路を用いた場合の結果である.固有振動モードに対応する周波数応答のピークが20〜30%程度低減しており,実車両においても振動低減効果が得られることが確認できた.
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