シクロヘキサン溶媒中で,多孔性ガラスプレートに吸着したテトラベース,ロイコマラカイトグリーソあるいはロイコクリスタルバイオレットの発色現象について分光学的研究を行なった。プレートとしては,原プレートならびにそれに酸化アルミニウムや酸化ニヅケルをそれぞれ沈積したプレートの3種を用いた。吸着した指示薬分子のごく少ない一部が表面と反応し,それぞれのカルボニウムイオソに変化して発色することを確かめた。発色量は時間とともに増加する。発色速度を定量的に検討した結果,つぎのようなモデルに基づく半無限一次元の拡散律速として考えうることが明らかになった。すなわち指示薬の吸着は最初短時間のうちに終了し,プレート外表面近くに一定濃度のうすい初期吸着層が形成する。吸着した指示薬はその後プレート内部に徐々に拡散していき,拡散した分子のうち一定の割合だけが発色にあずかるというモデルである。40,50および60℃ におけるすべて実験値はこのモデルから導かれた理論式m2=k2tによく一致した。ここにmは発色量,tは時間,kは見かけの速度定数であり,k=kao1D1/2/hπ1/2である。Kは表面反応率,ao1は吸着量aoにほぼ等しく,Dは拡散定数,hは初期吸着層の厚さである。各定数の数値的評価からも拡散モデルの妥当性を実証し得た。各種のプレートと各種の指示薬とを組み合わせた実験から,それぞれの発色速度,活性化エネルギーを比較検討し,表面の酸化性および拡散機構などについて考察した。分光学的方法はこのような表面反応や拡散現象を究明するための有効な手段であるといいうる。