本研究は, 海溝型巨大地震を対象とした, 超高層ビルなどの長周期構造物の被害に影響する長周期地震動(2-10秒)のための震源モデルおよび評価手法の構築を目的としている.2011年東北地方太平洋沖地震(以下2011年東北地震と呼ぶ)の短周期地震動を生成したSMGA(強震動生成域)からの波群の地震動の解析により, それらの震源スペクトルは, 2-10秒の長周期帯域を含んでω-2則に従う特性を持っていることがわかった.すなわち, SMGAからの地震動は, SMGAの直径に対応するコーナー周波数をもち, それよりも高周波数でほぼω-2で減衰する.理論的グリーン関数を用いて, SMGAからの地震動を計算するには, SMGAを分割する小断層サイズおよびすべり速度関数の適切な選択が必要とされる.ここでは, すべり速度関数としてsmoothed ramp関数と中村・宮武(2000)の関数を用いて比較検討を行った.小断層サイズを小さくすると, 指向性効果などの破壊伝播の再現がより有効になるという利点があるが, 小さくしすぎると, どちらの関数を用いても高周波数域で, 観測で見られるω-2よりも大きく減衰し, 対象とする2-10秒の地震動が再現できない.同じ小断層サイズの時, ライズタイムの逆数の周波数よりも高周波数域では, 中村・宮武(2000)の関数に比べてsmoothed ramp関数はより大きく減衰する.中村・宮武(2000)の関数を用いて, 小断層を1×1 km2とし, 破壊伝播速度に10%の揺らぎを与えることにより, 強震動生成域からの地震動は周期1秒までほぼω-2の特性をもつことを確認した.上記のすべり時間関数, 小断層サイズ, および破壊伝播速度の揺らぎの組み合わせで2011年東北地震の時観測された2-10秒の長周期地震動が, 5つの強震動生成域からの足し合わせでほぼ再現できることがわかった.