湖沼生態系におけるアオコ毒素ミクロキスチン(microcystin)の動態に関する研究が世界各国の研究者によって遂行されてきた。諏訪湖においてもいち早くmicrocystinの生産,吸着,物理化学的分解,生物蓄積そして生物分解に関する研究が開始された。諏訪湖のアオコ毒素microcystinの消長については,1991年から1998年まで8年間に及ぶ長期観測が行われた。その結果,Microcystisのアオコ形成初期に見られる細胞の増殖期には細胞内microcystin濃度が高いが,アオコの衰退時には細胞外microcystinの濃度が高いことが分かった。このようにアオコの衰退時期にはMicrocystisの細胞は分解が進み,細胞からmicrocystinが溶出することにより湖水濾液中のmicrocystinの割合が高くなる。諏訪湖産の淡水二枚貝,イシガイ(Unio douglasiae),ドブガイ(Anodonta woodiana),カラスガイ(Cristaria plicata)はmicrocystinを蓄積することが分かった。特に,毒素の含有量が多いイシガイについて,部位別のmicrocystin含有率を示すと,中腸腺が53%,鰓と筋肉が34%,生殖腺が6%,消化管7%となり,microcystinの多くは貝の肝臓に当たる中腸腺に蓄積されていることが明らかにされた。諏訪湖の二枚貝における中腸腺のmicrocystin最大蓄積量はイシガイが420μg g-1,カラスガイが297μg g-1,ドブガイが12.6μg g-1で,最大含有量は貝の種類により大きな差が見られた。また,朴らは諏訪湖からmicrocystin-RR,-YR,-LRを特異的に分解する新属新種のバクテリアを単離することに成功した。このバクテリアは20μgmL-1のmicrocystinを数日ですべて分解することができる。Microcystinの分解速度は分解時の温度に強く影響され,30℃で最も分解率が高いことを報告した。水源池になっている湖沼におけるアオコ毒素の存在は健康被害の危険性をはらんでいることから,浄水場には定期的なモニタリングのシステムを完備するなどの危機管理が必要である。また,microcystin分解バクテリアの動態を明らかにし,microcystin分解機構を詳細に解明するこができれば,水源池におけるアオコ毒素の処理に用いられる分解・除去方法に,その知見を応用することができると期待される。