心筋虚血でST上昇, 下降に区分される機序を対側冠動脈病変の有無から検討した.雑種犬35頭で左冠動脈前下行枝 (LAD) を灌流し, この流量を平均18.4±1.8から5.3±1.4ml/minまで減らしたとき, 心表面心電図111個中109個ではST上昇, 2個でST下降が起った (実験A) .このとき左廻旋枝 (LCX) には虚血部へ血流供給をしたと考えられる代1賞性血流増大があった.LCXにcritical stenosisを作った後でLAD流量を15.5±1.5から6.2±1.2ml/minへ低下させたとき, 111個中11個にST下降がみられるようになった.この際, 大動脈圧とLCX流量は低下し, globa lischemiaが生じた (実験B) .実験Cでは, LADとLCX間の血流供給を遮断する目的で自由壁を絹糸で縫合した後に, LAD流量を漸減すると, 90個中48個にST下降がみられた.Aでは大幅な血流低下で初めて貫壁性虚血, ST上昇となり, 対側から副血行のないB, Cではわずかの血流低下で心内膜下虚血が起り, ST下降がみられ易くなったと考えられた.