2008年4月~2011年3月の降雪期に北海道空知地域で,クマゲラ Dryocopus martius とオオアカゲラ Dendrocopos leucotos の採餌場所を直接観察することにより,両種の採餌場所,つつかれ出た木くずや樹皮の大きさ,くちばし痕の幅を比較した.さらにこれらのデータを使って両種の採餌痕を識別する方法について検討した.また,博物館標本を用いてくちばしサイズの計測を行った.クマゲラのみ針葉樹で採餌し,採餌木の胸高直径はクマゲラの方が太かった.枯死木利用率は両種でほぼ同じあり,クマゲラだけ生幹で採餌し,オオアカゲラは枯枝で採餌することが多かった.つつかれ出た最も大きい木くずや剥がされた樹皮の大きさは,クマゲラの方が大きかった.くちばし痕の幅に影響を与える要因を調べるため一般化線形モデルで解析した結果,鳥種のみがくちばし痕の幅に影響を与え,鳥種×性,木くずの堅さ,樹種はくちばし痕の幅に影響を与えなかった.くちばし痕の幅はクマゲラで 4~7 mm,オオアカゲラで 2~5 mmと,6 mm以上のものはすべてクマゲラのものであった.1箇所でくちばし痕の幅を3つ測定できた場合の中央値は,クマゲラで 4~6 mm,オオアカゲラで 2~4 mmであり,5 mm以上はクマゲラだけであった.クマゲラのくちばし幅の実測データを使いブートストラップ法により確率を推定すると,最大値を用いるより,くちばし幅が3個測定できた場合で,その中央値が 5 mm以上である場合の確率の平均は0.904(95%パーセンタイル信頼区間:0.788~0.988)と高く,クマゲラの採餌痕を判別する基準としての信頼性は高かった.クマゲラとオオアカゲラの採餌痕を分類するために構築した樹形モデルでは,まずもっとも大きい木くずの大きさ13以上でクマゲラを分け,残ったデータを採餌位置で,生幹をクマゲラ,生枝,枯幹,枯枝をオオアカゲラと分類した.この場合のクマゲラの正答率は75.4%であった.標本を用いて,両種のくちばしを計測した結果,計測したどの部位に関しても明らかにクマゲラのくちばしは大きかった.