Abstract
ニホンシカ(奈良公園)の精巣ならびに精巣上体の生後発達の経過と成熟雄鹿の季節的変化について組織学的研究を行った。本研究に含まれた雄鹿の区分と例数は次の通りである。1.新生幼鹿出生から生後2ヵ月以内,9例。2.未成熟仔鹿生後3ヵ月から2年以内,7例。3.成熟鹿生後2年以上,26例(1例の例外を含む)。本研究から得られた結果は次の通りである。1.新生幼鹿の精巣は長軸が1cm以下の細い紡錘形であるが,1年を過ぎると長軸は2cm,また短軸は約1.2cmの楕円体となる。新生幼鹿精巣の重量および精細管直径は極めて変動性であるが,この現象は母体の子宮内環境からの離脱による結果であろうと思われる。生後1年までの精細管直径は一部の例外を除き40~60μmを示す。第2年目の秋を迎えた雄鹿の精巣は飛躍的に増大し,精細管直径はこの時期90μmに達する。早熟の個体ではこの時期に精子形成が達成される。2.成熟雄鹿では生殖器官の季節的変動が著明である。交尾期の雄鹿精巣は長軸が約5cm,短軸は3~4cmの円味をもつ楕円体である。重量の増加もまた著明で,3月および4月の退縮期のものの約4倍に達する。最高活性期の精細管は140~240μmの直径を示す一方,退縮期になると100~140μmに減少する。3.奈良公園のシカの交尾期は10月中旬から12月中旬までとされている。精巣の季節的再発達recrudes-cenceはほぼ6月に始まり,8月になると重量および精子形成能とも十分な発達段階に到達する。精巣間質組織も季節的な分化を繰返し精細管の発達と密接に関連しているように見える。4.第2年目の秋に精巣重量が飛躍的に増加するのに対応して精巣上体重量も増大する。これと共に精巣上体管直径ならびにその上皮も著明に増大する。成熟雄鹿の場合,交尾期のものは非繁殖期のものの約2倍の重量に達すると共に精巣上体管直径にも著明な増大がみられる。5.交尾期を過ぎても,2月頃までは精巣と精巣上体に精子が存在することから,遅れた時期にも交尾する可能性は否定できない。奈良公園の鹿は完全な野生集団ではないこと,また成熟雄鹿の一部について毎年秋に強制的な断角を行うことなどから,鹿に特有な階級性社会を形成しているかどうかは疑わしい。従って彼らが示す生殖生理学的現象は本来の生殖パターンからかなり変異したものである可能性も考えなければならない。
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