Abstract

1970年夏季に広島県福山市の御幸牧場において,全ての搾乳牛が低酸度二等乳を泌乳すると云う異常乳の集団発生がみられ,これらの乳牛はMg代謝障害による慢性の泌乳障害と骨粗鬆症に罹っていることが判った。これらの乳牛の血清像を追跡調査したところ,血清Mgは年間通じて低いが,1971年8月になり急激な血清Caと血清無機燐の低下がみられたので乳牛を診察したところ20頭の成牛のうち15頭に尿中ケント体の反応が認められ,食欲減退などの症状を伴ったケトージスの集団発生が発見された。 乳牛のケトージスの原因や発生機序には不明な点が多いが,御幸牧場の乳牛群がMg欠乏の状態にあること及び糖の嫌気的及び好気的代謝においてMgが重要な働きをしている事に注目しケトージスと糖及びMg代謝の関係を検討した。すなわち,(1)ケトージスにおいてはα-ケトグルタール酸からサクシニルCoAへのTCAサイクルにおける酸化的脱炭酸反応の代謝障害が生じてサクシニルCoAが減少すると,(2)アセト錯酸からアセトアセチルCoAへの反応はサクシニルCoAの存在とこの反応に関与する酵素が必須であるので,サクシニルCoAの減少はアセト酷酸すなわちケトン体の蓄積をもたらせることになる。とくに反応(1)にはTDP, Lipoate, CoA, NAD, FADと共にMgが必要であり反応(2)の酵素3-Ketoacid transferaseは筋肉中にのみ存在することが知られているのでケトン体の消費は筋肉内においてのみ行なわれることになる。すなわちケトージスは筋肉内におけるTDP, Lipoate, CoA又はMgのいずれかの不足により酸化的脱炭酸反応の阻害とそれにひきつづいてケトン体の蓄積が生じることになる。 御幸牧場の乳牛においては飼料中のMg不足によるMg代謝障害が慢性的に潜在するころに,夏季の高温により急激にMgの要求量が増加するなどの原因でケトージスが発生したものと考えられる。

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