Abstract

クロラニルを電子受容体とし, 芳香族物質を電子供与体とする分子化合物について電荷移動吸収帯 (以下CTと略す) の測定を行ない, その結果について考察した。得たおもな結果は, 1)多くの電子供与体について二つの CT が認められた。 2)ベンゼンのメトキシル置換体にみられる二つの CT の位置はこの二つの CT がベンゼンの縮退準位の分離に基づくとして摂動法により計算した結果から予想されるものと一致した。 3)アクリジンを電子供与体とする場合の CT の位置はアントラセンのそれにくらべていちじるしく短波長にあるが, このことは分子軌道法による計算結果と一致する。 4)無極性溶媒中の CT は全般の傾向として溶媒の屈折率が大きいほど長波長にあるが, 溶媒が電子供与体となりうるものでは比較的短波長にある。このことは結合を形成したクロラニル分子の結合しない側の分子平面に溶媒分子が配位するためと考えられる 。 5)電子受容体がクロラニルの場合と p-ベンゾキノンの場合とでの諸種の電子供与体での CT の距離 (波数差) は 5600~6000cm-1 の範囲内にあるが,トルエンと p-キシレンの場合この範囲からはずれている。このことはトルエンおよび p-キシレンではベンゼンのメチル置換体にみられる接近した二つの CT の相対的高さが両電子受容体で相違することによると考えられる。

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