毛細管内を流れる際に死滅精子が示す方向性を希釈液の粘性を高めることにより阻止できるか否かを検討し,さらにこの希釈液を用いて生存精子の走流性を観察しようと試みた。実験動物は家兎とニワトリを用い,家兎精液にはTyrode液,ニワトリ精液にはRinger液を希釈液として使用した。粘性の付与はゼラチソを5%添加して行い,凍害防止の目的でグリセリソを7%配合した。装置は主に毛細管を使用したが,比較の意味で家兎精液には内径3mmの管,ニワトリ精液には深さ約0.15mmの長方形の管も用いた。ゼラチン添加液を使用した場合の精子の方向の観察は,ドライアイスアルコールを注いで凍結した後4°Cで解凍し,凝固状態のままで検鏡した。3mm管の場合は飽和食塩氷水で凍結した後内容物を氷冷10%ホルマリン液で固定し,薄切して検鏡した。観察結果の概略は下記のとおりである。1.死滅家兎精子をTyrode液を用いて秒速100及び50μで毛細管内に流すと,上流を向く精子はほぼ50%,下流向きは11~15%であったが,25μではそれぞれ16%及び43%となった。ゼラチン添加液では毛細管も3mm管も共に上流,下流,左右向きそれぞれ25,25,50%の割合に近づき,方向性が著しく妨げられた。2.ゼラチン添加液を用い生存家兎精子を毛細管内に100μ/秒で流し,左右の側壁付近を4分の1ずつ除外して上,中,下層の精子の方向を観察したところ,いずれの層も上流,下流,左右向きがおのおの3分の1ずつとなった。3mm管の場合はそれぞれ25,25,50%に近い割合となった。3.ニワトリ精液をゼラチソ無添加または添加Ringer液で希釈して毛細管内を秒速50,25,12.5μで流すと左右向き精子が60~70%を占め,縦方向に関しては流速により上流向きと下流向きの割合が逆となった。ゼラチン添加液を用いて長方形管内を流すと3方向おのおの25,25,50%となった。精子の生死による差は少なく,長方形管では全く認められなかった。以上の成績は家兎及びニワトリの精子には本来走流性が存在しないことを示すものと考察した。
Read full abstract