アカパンカビの浸透圧感受性株に対する薬剤感受性を調べたところ, os-1, os-2, os-4, os-5変異株が, ジカルボキシイミド剤, 芳香族炭素系剤と同様にフルジオキソニルにも交差耐性を示すことを見いだした. os-2, os-4, os-5変異株は各剤に高度の耐性を示したが, os-1変異株は低度耐性でイプロジオン (LD50: 14μg/ml) とフルジオキソニル (LD50: 0.087μg/ml) に対し感受性を残していた. 一方, 浸透圧感受性 cut 変異株は野生株と同等の薬剤感受性を示した. また, 野生株をフルジオキソニル処理すると分生胞子の膨潤と破裂が誘導されたが, この形態異常は cut 変異株でも同様に観察された. フルジオキソニル, イプロジオンを野生株に処理するとグリセロールの異常蓄積が認められることが報告されているが, これらのグリセロール異常蓄積は薬剤に高度耐性を示すos-2, os-4, os-5変異株では認められなかった. また, 低度耐性os-1変異株を10μg/mlの薬剤濃度で処理した場合に, フルジオキソニルでは顕著なグリセロールの蓄積が認められたが, イプロジオンではグリセロール蓄積量は野生株と比較し低下していた. これらの結果から薬剤耐性とグリセロール異常蓄積の相関が推定された. しかし, 浸透圧感受性 cut 変異株は薬剤に野生株同等の感受性を示したにも関わらず, フルジオキソニル, イプロジオンによるグリセロールの蓄積誘導は認められなかった. 高浸透圧下では, os変異株はグリゼロールの蓄積を示したが蓄積量は野生株より低下していた. 一方, cut 変異株では高浸透圧条件下でもグリセロール蓄積は認められず, 同変異株ではグリセロール合成能が欠損していると推定された. フルジオキソニル, イプロジオンはグリセロール合成能を欠失した株に対しても野生株と同じ抗菌作用を示すと考えられることから, これらの化合物は浸透圧のシグナル伝達をかく乱するが, グリセロールの異常蓄積は直接抗菌作用発現に関与していないと考えられた.