Abstract

veno–veous extracorporeal membrane oxygenation(VV–ECMO)導入時に生じた右鎖骨下動脈–内頚静脈瘻(SCA–IJV fistula)に対してVIABAHN®を用いて血管修復を行った1例を経験したため報告する。症例は67歳男性。肺胞蛋白症に対してVV–ECMO補助下で全肺洗浄を行う目的で入院し,術前に右内頚静脈への送血管の挿入を試みた。ガイドワイヤーが下大静脈まで挿入されていることを確認した後,ダイレーターによる拡張を行ったが,抵抗があったため処置を中断した。中断後の造影CT検査で右SCA–IJV fistulaを認めたため,同日に右鎖骨下動脈損傷部にVIABAHN®を留置して修復を行った。第3,7病日にそれぞれ右,左全肺洗浄を実施し,第15病日に退院した。VV–ECMO導入時の合併症としての右SCA–IJV fistulaは稀である。ガイドワイヤーが適切に挿入されていてもダイレーターで血管壁を損傷する場合があり,リアルタイムでダイレーターやカテーテル先端を確認する必要があると考えられた。本症例のように呼吸不全の患者や,呼吸予備能の低下した患者において,SCA–IJV fistulaが生じた場合には,外科的修復は選択しにくく,低侵襲な血管内治療が有用であった。 The 67–year–old male was admitted for VV–ECMO–assisted whole lung lavage for pulmonary alveolar proteinosis and preoperative drainage–cannula insertion into the right internal jugular vein was attempted. After confirming that the guide–wire was inserted into the inferior vena cava, dilatation with a dilator was performed, but the procedure was stopped due to resistance. Contrast–enhanced CT scan after the procedure showed a right subclavian artery–internal jugular vein fistula. On the same day, the vascular injury was repaired with VIABAHN® (stent graft). On the 3rd and 7th day, right and left whole lung lavages were performed respectively, and the patient was discharged on the 15th day. Right subclavian artery–internal jugular vein fistula as a complication during VV–ECMO is rare. Even if the guidewire is inserted properly, the dilator can damage the vessel wall, and it is necessary to confirm the movement of the dilator and catheter tip in real time. When SCA–IJV fistula occurs in patients with respiratory failure, as in this case, not surgical repair but endovascular treatment is suitable. 右内頚静脈からのカテーテル留置は広く行われている 1。その合併症の中で動静脈瘻は稀である 2。中心静脈カテーテル 3や血液透析カテーテル 4,術中の人工心肺用のカテーテル 5挿入時に合併した報告はあるが,VV–ECMO挿入時の報告はない。今回VV–ECMO挿入時に,右鎖骨下動脈–内頚静脈(以下,SCA–IJV fistula)を合併し血管内治療で治療し得た症例を経験したので報告する。 本論文は症例報告であり,当院の倫理委員会の承諾を要しない研究である。また,個人情報保護法に基づいて匿名化されている。論文出版につき,患者の同意を得ている。 患 者:67歳の男性。身長173cm,体重66kg,BMI 22 既往歴:自己免疫性肺胞蛋白症(右8回,左6回の全肺洗浄を実施した既往歴がある。),糖尿病,慢性腎臓病,慢性呼吸不全(在宅酸素療法5L/min) 内服薬:アムロジピンベシル酸塩,オルメサルタン,メドキソミル,ドキサゾシンメシル酸塩,アンブロキソール塩酸塩,ロスバスタチンカルシウム,ピオグリタゾン塩酸塩 現病歴:来院2年前より肺胞蛋白症の治療目的に全肺洗浄を実施し,その後,2か月に1回の肺胞洗浄を要した。2か月前の肺胞洗浄では左肺のみの換気では酸素化を保てず,VV–ECMOを使用し右肺胞洗浄を実施した(右大腿静脈経由下大静脈脱血,右内頚静脈送血)。今回はVV–ECMOを併用して左肺胞洗浄を行う目的で入院となった。 入院時血液検査:WBC 7,850/µL,Hb 14.9g/dL,platelet 16.3×104/µL,HbA1c 6.9%,KL–6 17,300U/mL,SP–D 1,420ng/mL,SP–A 355ng/mL,PT–% 100,PT–INR 1.00,APTT 34.8sec,fibrinogen 315mg/dL 入院時血液ガス分析(酸素5L投与下):pH 7.393,PaCO2 41.8mmHg,PaO2 100.0mmHg,HCO3− 24.9mmol/L,SaO2 97.7% 入院時胸部単純CT:両側全肺葉にわたるすりガラス影を認めた。小葉間隔壁肥厚や小葉内網目状陰影が目立つcrazy paving patternを認めた。観察可能な範囲で内頚静脈,鎖骨下静脈の走行異常は認めなかった。2か月前の送血管の留置に伴う変化は右内頚静脈の周囲に認めなかった。 入院後経過:当院では全肺洗浄を行うのはハイブリッド手術室を第一選択としているが,本症例では手術室の状況よりハイブリッド手術室を使用することができなかったため,手術室でECMOの装着を行う予定とした。手術室で全身麻酔を導入した後に超音波ガイド下に右内頚静脈を穿刺し,ガイドワイヤーを下大静脈に留置した。X線透視装置で適切にガイドワイヤーが留置されていることを確認し,穿刺部をダイレーターで拡張した。非連続的なガイドワイヤーの位置確認で十分と判断し,術者の人数も考慮して操作点の連続観察は行わなかった。16Frダイレーターの挿入時に抵抗が強く,カニュレーションを中断し,ダイレーターとガイドワイヤーを抜去し,画像検査を行った。 造影CT検査で右鎖骨下動脈から右内頚静脈まで連続する不整な造影効果を認めた(Fig. 1a)。右SCA–IJV fistulaと診断した。左椎骨動脈は正常で開存していた。血管造影検査でも右鎖骨動脈造影で,血管外へ連続する不整な瘻孔を経て右内頚静脈が造影された(Fig. 1b)。頚部超音波検査で瘻孔の位置を確認し1時間圧迫したが瘻孔は消失しなかったため,血管内治療による損傷部の修復を行う方針とした。瘻孔が大きく不整であったことからステントグラフトによる修復を行う方針とした。本邦で唯一保険の適応のあるVIABAHN®ステントグラフトを使用する方針とした。右鎖骨下動脈損傷部(瘻孔動脈側)から右椎骨動脈や右甲状頚動脈,右内胸動脈の分岐部はそれぞれ16mm,19mm,22mmであった(Fig. 1c)。鎖骨下動脈径は10mmであった。10mmのVIABAHN®ステントグラフトの最短のグラフト長は5cmであり,損傷部から腕頭動脈分岐部の距離が近いことも考慮すると,右椎骨動脈,右甲状頚動脈,右内胸動脈はエンドリーク予防に塞栓する必要があると判断した。対側椎骨動脈の開存を術前CTで確認したため中枢神経合併症のリスクは低いと評価した。処置に伴う合併症のリスクを患者家族に説明したうえで,同意を得た。右甲状頚動脈,右椎骨動脈,右内胸動脈を右上腕動脈アプローチでcoilingした後に,右大腿動脈アプローチでVIABAHN®ステントグラフト(10mm×5cm)を右鎖骨下動脈に留置して,PTAバルーンで後拡張した。大動脈撮影で右SCA–IJV fistulaが消失したことを確認した(Fig. 2)。ステントグラフト留置後,第3病日よりヘパリン持続投与を開始し,第9病日にCT検査で右SCA–IJV fistulaは消失していることを確認した。ヘパリン持続投与を終了として,クロピドグレル,アスピリン内服を開始した。慎重に酸素化をモニタリングしながら洗浄量を調整することで,人工呼吸器のみの呼吸管理で第3病日に左全肺胞洗浄,第7病日に右全肺胞洗浄を行い,第8病日に抜管することができた。第15病日に退院となった。6か月後の造影CT検査でステントグラフトの開通を確認し,抗血栓療法はアスピリンの単剤とし,半年継続後に抗血栓療法を終了とした。治療経過で脳梗塞の合併はなかった。 a: 3D reconstruction of Contrast–enhanced computed tomography scan showing a right subclavian artery–internal jugular vein fistula (arrow). b: Right subclavian arteriography showing an irregularly shaped right subclavian artery–internal jugular vein fistula (▲: SCA–IJV fistula, ▲▲: carotid artery, ▲▲▲: internal jugular vein, ▲▲▲▲: subclavian artery). c: 3D reconstruction of Contrast–enhanced computed tomography scan showed that the distances from the injury site of the right subclavian artery to the right vertebral artery, right thyroid carotid artery and right internal thoracic artery were 16mm, 19mm and 22mm respectively (*: vertebral artery, **: internal thoracic artery). Aortography after repair with VIABAHN® revealing the disappearance of the right subclavian artery–internal jugular vein fistula. 中心静脈からのカテーテル挿入時において動脈損傷は約0.5~3.7%で生じるといわれている 3が,SCA–IJV fistulaは稀である 6。 動脈誤穿刺が中心静脈へのカテーテル留置における動静脈瘻の最も多い発生機序とされる 7。しかし,今回の症例ではエコーガイド下に前壁のみ穿刺し,ガイドワイヤーの血管内への留置を確認した後にダイレーションを行った。ダイレーション時に抵抗があり,右SCA–IJV fistulaが生じたことから,原因はダイレーターによる血管壁後壁損傷による動静脈瘻形成であった(Fig. 3)。ダイレーターを皮膚の拡張のみならず血管内に長く挿入していた可能性があり,X線透視下でダイレーターの動きをリアルタイムで見ていなかったことは反省点であった。リアルタイムでガイドワイヤーやダイレーター先端の挙動を観察することで後壁損傷が防げた可能性があった。また,ダイレーター挿入時にガイドワイヤーにテンションをかけ血管壁の損傷を予防するが,そのテンションが不十分であったことも一因と考えられた。加えて,過去のカニュレーションによる血管壁の脆弱性が生じていた可能性も考えられた。 SCA: subclavian artery, IJV: internal jugular vein, GW: guide wire, D: dilator SCA–IJV fistulaは一般的には無症状であるが重症化すると心不全,動脈盗血症候群,上肢の不定愁訴を呈することがある 3。無症状か瘻孔の拡大がなければ,経過観察する選択肢もある 8が,大口径カテーテルによる動脈損傷が生じた際には速やかに血管の修復を行うことが安全であるとする意見もある 9。本症例では動静脈瘻が形成された直後に発見され,瘻孔は大きく形状が不整であった。瘻孔が破綻し,出血や血腫による気道閉塞の可能性があることや,心不全を発症すると原病の肺胞蛋白症による呼吸不全の管理にも不利になると判断し早期に治療する方針とした。 治療方法の選択肢としては体表からの圧迫,外科的修復,血管内治療があるが,明確なガイドラインはない 9。体表からの圧迫のためにカテーテル(本症例の場合にはダイレーター)抜去が出血を助長する可能性がある。また,7Fr以上のカテーテル挿入による血管損傷に対しての圧迫は治療効果が乏しいうえに,脳卒中などの重大なリスクを伴うとされている 8, 9。本症例でのカテーテルサイズを考慮すると大出血や圧迫による脳梗塞が生じる可能性も高く,ダイレーター抜去後に圧迫を選択したことは反省点であった。従来は外科的修復を行うことが中心であったが,胸郭の出口に位置する鎖骨下動脈はアプローチが困難で鎖骨の切除や胸骨正中切開を要する 10ことから,近年では血管内治療による修復が多く報告されている 8。本症例では全身状態を考慮して,血管内治療による治療を選択した。血管内治療には塞栓とステントグラフトによる修復という2つの方法がある 5, 8が,瘻孔が大きく不整であることや瘻孔の塞栓では血管壁修復はできないことからステントグラフトによる修復を行った。使用したVIABAHN®ステントグラフトは胸部,腹部,骨盤内の血管径4.0〜12.0mmの外傷性または医原性動脈損傷が適応である(ただし,大動脈,冠動脈,腕頭動脈,頚動脈,椎骨動脈や肺動脈を除く)。長期成績に関してはまだ不明な点が多い 4が,本症例ではVIABAHN®ステントグラフト留置に伴う,合併症は認めなかった。術後の経過は良好で,当初の目的であった全肺洗浄を早期に行うことが可能であった。 ECMO cannula挿入時にSCA–IJV fistulaを合併することがある。ダイレーター挿入長に留意し,ダイレーターやカテーテルの先端の位置を確認する必要がある。また,本症例のように呼吸不全の患者や,呼吸予備能の低下した患者において,SCA–IJV fistulaが生じた場合には,外科的修復は選択しにくい。その低侵襲性から血管内治療が有用であると考えられた。 本論⽂の全著者には,開⽰すべき利益相反を認めない。

Full Text
Published version (Free)

Talk to us

Join us for a 30 min session where you can share your feedback and ask us any queries you have

Schedule a call