Abstract

津雲,吉胡貝塚出土の縄文時代人計19個体と現代日本人計22個体の頭蓋骨の形態変異を,3次元幾何学的形態測定学に基づいて分析し,従来の頭蓋計測値に基づく多変量解析の結果を再現するか,また今まで報告されていない新たな形態変異を検出するか検証を試みた。まず,CTスキャナを用いて頭蓋骨の精密3次元立体形状モデルを構築し,計35点の解剖学的標識点の3次元座標を取得した。そして縄文時代人と現代日本人の頭蓋形状の変異傾向を,幾何学的測定形態学に基づいて分析した。分析は,35標識点すべてを用いるが縄文時代人の個体数が少ない分析Iと,個体数は多いが遺存の悪い部位を除いた計23標識点のみを用いる分析IIに分けて行った。その結果,現代日本人は,津雲貝塚人と比較して相対的に上顔高と鼻高が高く,脳頭蓋幅と頬骨弓幅が狭く,口蓋と頭蓋底が下方に位置し,顔面が立体的で歯槽性突顎の傾向があることが示され,幾何学的形態測定学に基づく分析結果は,従来手法に基づく先行研究の結果と基本的には一致することが明らかとなった。また,現代日本人の頭蓋骨では,津雲貝塚人と比較してラムダが相対的に前方にイニオンが後方に位置し,後頭鱗が相対的により垂直になる傾向があることが新たに検出された。幾何学的形態測定学に基づく古人骨の分析は,破損・欠損のため解析に含められる標本が必然的に限られてしまう問題があるが,形態の変異傾向を統計学的に抽出し,また視覚的に表示する上で有効であることが確認された。

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