Abstract

SARS–CoV–2ワクチン「コミナティ筋注®」のアナフィラキシーの発生頻度は,ファイザー社より100万回接種あたり4.7例と報告されたが,厚生労働省の報告状況では100万回接種あたり22件と報告された 1。 今回,SARS–CoV–2 ワクチンによるアナフィラキシー後に発症した急性心筋梗塞(Kounis syndrome)の1例を経験した。ワクチン接種に対して注意喚起の意味合いも含めて報告する。 なお,本論文は,当院倫理委員会において承認された。また,個人情報保護法に基づいている。 患 者:97歳の女性 主 訴:食欲不振 既往歴:高血圧,糖尿病,うつ病 生活歴:特別養護老人ホーム入所中で,ADLは車椅子の方。 現病歴:かかりつけ医で1回目のコミナティ筋注®を接種して数分後から咳嗽および喘鳴が出現。アドレナリン0.3mg筋注を3回施行されて症状は改善し,特別養護老人ホームで経過観察をした。翌々日の採血検査でWBC 16,400/µL,CK 653IU/Lと高値であることに加え,12誘導心電図で異常を認めたため当救命救急センターに紹介となった。 現 症:血圧150/81mmHg,心拍数72/分,SPO2 96%(室内気),体温35.9℃,呼吸数16/分であった。 12誘導心電図検査:II,III,aVFおよびV2からV5誘導で新規の広範なST低下と心房細動を認めた(Fig. 1, 2)。 Electrocardiogram (two years ago): There were no ST–T changes. Electrocardiogram (on admission): There were new ST changes in II, III, aVF and V2 to V5 with atrial fibrillation. 血液検査所見:CKおよびCK–MBの上昇に加えて,トロポニンTが47.04ng/mLと高値であった(Fig. 3)。 Blood test (time series): CK and CK–MB were high on admission. These test results were chronologically improved. 心臓超音波検査:EFは40%と低下しており,左室前壁から側壁の壁運動低下を認めた。 入院後経過:以上の検査結果より非ST上昇型心筋梗塞NSTEMI(non–ST–elevation myocardial infarction)と診断した。心臓カテーテル治療の適応であると考えられたが,患者および家族が積極的な治療を希望しなかったため,血小板薬2剤併用療法を中心とした保存的治療を施行した。 その後も胸部症状出現はなく心筋逸脱酵素も低下して第4病日に車椅子で退院となったが,第5病日に施設で死亡した。 アナフィラキシーでは,肥満細胞が活性化されて脱顆粒により種々の炎症性メディエーターが放出されることで冠動脈攣縮の誘発や冠動脈プラークの破錠を来すことが証明されておりKounis症候群と定義される 2。 本症例は,SARS–CoV–2ワクチン接種後にアナフィラキシーを発症した。接種翌日の血液検査でCRP高値であることから,炎症性メディエーターの放出による高度な炎症反応があったことが推測される。心臓カテーテル検査は施行していないが,接種翌日のWBC,AST,LDHが上昇していることから,アナフィラキシーで冠動脈攣縮または冠動脈プラークの破錠が起こり,急性心筋梗塞(Kounis症候群)を発症したと考えられる。死因については不明な点が多いが,基礎疾患を考慮すると,もともと冠動脈狭窄があり再梗塞を併発した可能性もある。 本症例のようなワクチン接種に起因したKounis症候群の報告は非常に少なく,インフルエンザワクチンや破傷風ワクチンに起因した報告が少数あるのみである 3, 4。ワクチン接種の直後というタイミングであること,他に関与する抗原の摂取がないことからワクチンによるアナフィラキシーは明白であるが,冠動脈攣縮との関連の可能性を否定できる要因はほとんどないと考えられる。 コミナティ筋注®の投与開始初期の重点的調査(コホート調査)では被接種者数19,807例に対して,急性心筋梗塞の発生は1例であった 5。 コミナティ筋注®による急性心筋梗塞の発生頻度について研究された論文はなかったが,CDC(Centers of Disease Control and Prevention)が公表しているThe Vaccine Adverse Event Reporting System(VAERS)Resultsによると,2021年9月10日時点でコミナティ筋注®被接種者223,487例に対して急性心筋梗塞の報告が298例(0.13%)であり前述の報告 5よりかなり高いデータとなっている。被接種者が報告するシステムになっており統計学的に正確ではなく,因果関係も証明されていないが,臨床的な急性心筋梗塞の発生頻度は,投与開始初期の重点的調査よりも高い可能性がある。コミナティ筋注®接種後は,アナフィラキシー関連として急性心筋梗塞にも注意が必要であると考える。 新型コロナワクチン接種によるKounis症候群を報告する。 本研究における利益相反はない。

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