Abstract

Enteroatmospheric fistula(EAF)は,open abdomen management(OAM)に伴う致死的合併症の一つで,開腹術創部に直接開口する消化管瘻を指す。43歳の男性が交通事故に伴う多発外傷で長期のOAMを余儀なくされた。早期閉腹のためfascial traction法を用いて腹壁の退縮を予防し,第20病日,component separation法を試みたが閉腹困難であり,第30病日に小腸のEAFを発症した。EAF管理に際しては,ストーマ化による瘻孔排液の分離に難渋し漏れが頻発したが,陰圧閉鎖療法を併用した物理的な瘻孔圧迫や腸管縫合による閉鎖が腸内容物の排液量制御に有用であった。但し,完全な閉鎖は困難で時間を要するため,栄養吸収に問題がなければ早期の植皮術・ストーマ管理が入院期間の短縮に有用と考えた。 Enteroatmospheric fistula (EAF), the digestive tract fistula opening directly to the laparotomy wound is one lethal complication associated with open abdomen management. A 43–year–old man who sustained severe multiple abdominal trauma due to a traffic accident required long–term open abdomen management. In order to perform early fascial closure, the fascial traction method was used in combination with negative pressure wound therapy (NPWT) to prevent fascial retraction. On the 20th hospital day, the component separation method was tried for fascial closure, but was unsuccessful. On the 30th hospital day, EAF in the small intestine was confirmed. In EAF management, being unable to drain intestinal fluid from the fistula caused frequent leakage, which resulted in adjacent skin erosion. Physical compression to the fistula on top of NPWT and simple intestinal closure decreased the amount of fistula output. The complete closure of chronic EAF is extremely difficult and time–consuming. Therefore, if the patient’s nutritional absorption is normal, the early stoma management with a split thickness skin graft should be considered to reduce the length of hospital stay. Enteroatmospheric fistula(EAF)は,開腹術創部に直接開口する消化管瘻を指し,open abdomen management(OAM)に時折発症する重篤な合併症である。死亡率は42%と報告 1されており,治療に難渋することも多い。今回,我々は多発外傷に合併したEAFの1例を経験したため,症例から得られた管理の要点と工夫を報告する。 患 者:43歳の男性 既往歴:特記事項なし 現病歴:大型バイク走行中に,乗用車と衝突し約10m飛ばされた(来院90分前)。救急隊接触時(来院82分前),呼吸数40/min,SpO2 94%(室内気),血圧151/65mmHg,心拍数128/min,意識レベルGlasgow coma scale(GCS)14(E4V4M6),瞳孔径右3.0mm,左2.0mmでありドクターヘリが要請された。右胸郭礫音および呼吸音減弱所見から右血気胸が疑われ,フライトスタッフにより現場で右胸腔ドレナージ,末梢輸液路確保が行われた(来院約40分前)。飛行中,呼吸数34/min,血圧86/65mmHg,心拍数124/minとショック状態になり,当院救急外来搬入となった。 初療経過:来院時,呼吸数34/min,SpO2 99%(リザーバーマスク10L/min),血圧75/–mmHg,心拍数127/min,意識レベルGCS 12(E4V3M5)で,身長180cm,体重91kg,body mass index 28.1kg/m2の肥満体型であった。Primary surveyにて骨盤X線検査上65mmの恥骨結合離開を認め,約1,000mLの初期輸液にも反応が悪かったため,不安定型骨盤骨折に伴うnon–responderと判断し,経口気管挿管および輸血による蘇生を開始した。搬入15分後に,止血術として骨盤後腹膜パッキングを施行し,SAM Pelvic Sling II(Seaberg, Oregon, USA)にて骨盤固定を追加した。来院時の血液検査では,fibrinogen 174.0mg/dL,D–dimer 30.86µg/mL,PT–INR 1.00,血小板238,000/µL,pH 7.30,lactate 5.0mmol/Lであった。循環動態の回復を確認後,全身CTを施行した(来院40分後)。骨盤骨折に伴い両側内腸骨動脈分枝から血管外漏出像を認めたため,血管造影室へ移動し(来院65分後),引き続き両側内腸骨動脈塞栓術を行った。その際,施行した上腸間膜動脈造影にて回腸枝に血管外漏出像を認め,腹部超音波検査にて液体貯留の増加が確認されたため,大動脈遮断バルーンを横隔膜上に留置し,引き続き緊急開腹術を施行した(来院110分後)。腹腔内には約2,000mLの出血を認め,回腸腸間膜が広範に断裂し,活動性出血を認めた。損傷部の腸間膜動静脈を結紮止血し,回腸部分切除術を施行した。全身CTで,脳内出血(右側脳室部),肺挫傷(右上下葉背側,左下葉背側),全身多発骨折(右第1~9肋骨,両側橈尺骨,右脛骨,右鎖骨,右肩甲骨)などの合併損傷を認めた(ISS 57,RTS 5.148,TRISS Ps 26%)。全身状態から手術時間の短縮と縫合不全の危険を考慮しダメージコントロール手術の方針とした。小腸吻合は行わず,陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy: NPWT)による一時的閉腹法(OAM)とし,骨盤創外固定術を追加した(来院245分後)。この時点で,fibrinogen 212.0mg/dL,D–dimer 11.37µg/mL,PT–INR 1.01,血小板74,000/µL,pH 7.26,lactate 4.8mmol/Lであった。搬入後約6時間における総輸液量は,晶質液5,000mL,濃厚赤血球20単位,新鮮凍結血漿24単位,血小板10単位(集中治療室入室後)であった。 入院後経過(Fig. 1):集中治療室入室時(来院310分後),血圧132/78mmHg,心拍数121/min,体温38.1℃,bilevel positive airway pressureモードでPaCO2 33.9mmHg,PaO2 108.0mmHg,P/F 270,pH 7.34,lactate 1.8mmol/Lと比較的安定していた。膀胱内圧は当初36mmHgと高値であったが,腹部コンパートメント症候群の症状はなく,尿量も150mL/hrと良好であり,後腹膜パッキングによる上昇と判断した。その後,膀胱内圧は20mmHg前後まで改善していった。手術に伴い抗菌薬は第1病日よりCEZ 1g×4/日(~第7病日)を使用した。第4病日,second look 手術にて小腸吻合術を施行したが,後腹膜血腫および腸管浮腫により閉腹困難な状態であったためNPWTとしてV.A.C.(KCI Medical, San Antonio, USA)を用いた管理を開始した。第6病日,筋膜の退縮を防止する目的でPROLENE mesh(Johnson & Johnson, New Jersey, USA)によるfascial traction法 2 , 1を追加し,連日meshを折り込み,腹壁の近接化を図った。第7病日,術創部感染を疑い,抗菌薬をTAZ/PIPC 4.5g×3/日に変更し,第14病日にABPC/SBT 3g×4/日(~第27病日)へde–escalationした。第20病日,component separation法 2による腹壁再建を試みたが閉腹は困難であり,planned ventral hernia(PVH)の方針へ変更した。しかし第30病日,小腸にEAFを発症した。Fistula V.A.C. 法 3 , 3,baby bottle nipple V.A.C. 法 4 , 4などを試みたが瘻孔排液の分離は困難であった(Fig. 2a, b)。第49病日より経腸栄養を,第72病日より常食の摂取を開始したが,漏れのため,多い日で1日4回の創部処置を要し創傷治癒は遅延した(Fig. 3a)。第79病日,腹腔内膿瘍に対してST 1,440mg×2/日(~第97病日)を使用した。第120病日ごろより,凸型に形成した手術手洗い用滅菌スポンジ(DISPOMEDIC® SCRUB:C.V. MEDICA®, Sarral, Spain)を瘻孔部から腸管内に挿入し外圧迫を併用したNPWTに変更したところ(Fig. 2c, d),1日1回程度の創処置で対応が可能となり,自由に経口摂取を行うことで栄養状態は著明に改善した(Fig. 1, 3b)。第163病日,小腸縫合術を施行したが完全な閉鎖は困難で(Fig. 3c),第208病日,腹壁の皮膚・皮下脂肪層で縫合部を覆う形で再縫合を行った(Fig. 3d)。その後も完全な小腸瘻の閉鎖には至らなかったものの排液量の減少が得られ,第240病日退院となった。 Clinical course. The patient developed EAF on Day 30, and he was discharged from the hospital on Day 240. It was important for nutritional management to use intestinal nutrition at the earliest possible date and was essential for both the patient’s recovery and wound healing. V.A.C.: vacuum–assisted closure, NPWT: negative pressure wound therapy, STSG: split thickness skin graft, EAF: enteroatmospheric fistula, CRP: C reactive protein, ALB: albumin, comp: compression with sponge Serial wound managements during the clinical course. a: Fistula V.A.C. method on Day 54. b: Baby bottle nipple V.A.C. method on Day 90. c: Compression in the fistula with sponge on Day 124. d: The sponge formed in T shape. The change in wound appearance. a: Abdominal wound on Day 54. EAF was found on the right side edge of the wound (white arrow). b: Abdominal wound on Day 163. Remarkable granulation is seen while the EAF remains same in size. c: Status post split thickness skin graft on the granulating tissue on Day 190. d: Approximation of the abdominal wall on Day 208. Hwabejireら 5は,死亡率と直結する腹部コンパートメント症候群の発症リスクは総蘇生液量96mL/kgで上昇し始め,1,302mL/kgで著明に上昇すると報告しているが,本症例では117mL/kgであった。また,massive transfusion protocolに準じて来院直後から濃厚赤血球:新鮮凍結血漿:血小板の比率を1:1.2:0.5で投与を行い,fibrinogenに関しては 200mg/dL前後を維持できており,希釈性凝固障害の防止もできたと考える。本症例では,全身状態および後腹膜血腫・パッキングによる腹腔内圧上昇から,OAMは不可避の状態であったが,以上より蘇生液量は適正であったと判断する。 EAFの管理に関しては,瘻孔排液の適確な分離による腹腔内や瘻孔周囲への流出防止,露出腸管の肉芽・上皮化形成促進が目標となる 6。過去の報告例 6を参考に様々な創処置を試したが,瘻孔周囲は露出腸管と肉芽組織であるため平坦ではなく,ストーマ面板の密着は困難であり 7,腸液の漏れが頻発した。瘻孔排液を受け止めるのではなく,出にくくするという発想で手洗い用スポンジを用いた物理的圧迫の方が漏れは少ない結果であった。また,V.A.C. の裏面に溜まった腸内容物は露出臓器と常に接触しており,創周囲の皮膚は糜爛を繰り返し 6,創傷治癒を遅延させた。我々はこのような状況下での分層植皮術は生着が見込めないと考えていたが,Cheesboroughら 8は,EAF例においても約2週間での早期分層植皮術の有効例を報告している。確かにストーマ管理においては腹壁と面板の密着のため,瘻孔部周囲における上皮化手段が必須であり,早期の分層植皮術は検討の余地がある。瘻孔閉鎖に関しては,瘻孔管がなく血管の発達した組織が周囲にないため自然閉鎖はない 6。ごく小さな瘻孔の場合,中間層皮膚移植片などで覆いNPWTを併用することで閉鎖が期待できる 9。本症例は,近位・瘻孔が大きい・排液量が中等量以上に該当し,縫合や被覆材での閉鎖は困難と報告 6されているが,現状でのストーマ管理では,著明な排液量による栄養状態・水分バランスの悪化が懸念された。瘻孔閉鎖の強い希望もあり,全身管理により栄養状態が改善し,開腹創部が安定化するのを待って小腸縫合に踏み切った。縫合部の緊張軽減のために減張縫合を加えたものの再発を認めたため,腹壁皮膚で縫合部を寄せて覆った結果,完全な閉鎖は困難であったが,排液量の減量に有効であった。 EAFでは,NPWTを併用した物理的な瘻孔圧迫や腸管縫合による閉鎖は排液量制御に有用となり得るが,完全な閉鎖は困難で時間を要する。栄養吸収に問題がなければ早期の植皮術・ストーマ管理が発症後の入院期間短縮に有用と考察した。 なお本論文の要旨は,第30回日本外傷学会において報告した。 本報告において,利益相反はない。

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