Abstract
国内の動物園・水族館(園館)の飼育下ペンギン類で見られる感染症のうち,鳥マラリアは致死例もあるため予防や治療に対する関心が高いが,原因となる鳥マラリア原虫の種類,媒介するベクター昆虫種,さらにそれらの分布状況は不明であった。宿主動物や昆虫を捕獲して病原体の分布状況や伝播経路を把握・解明する際は,天候・時季・人員などの制約もあり,必ずしも十分な情報が得られない。一方,様々な野生動物を飼育展示している園館では,年齢,性別,健康状態などの個体情報が明らかな上,飼育環境も把握・管理され,定期的な採材も可能であり,理想的な疫学調査フィールドと言える。2004年以降,我々は主にペンギン類を対象に,国内の多くの園館から多数の検体提供を受け,鳥マラリア感染状況や,園館内に生息するアカイエカ(Culex pipiens)がペンギン類を始めとする園館内の各種鳥類を吸血してベクターとなることを明らかにしてきた。そして,国内の飼育下ペンギン類に見られた各種原虫は,園館内外に飛来・生息する様々な野鳥が感染源であることも示し,鳥マラリア感染制御のために必要な基盤となる知見を提供することができた。他にも犬糸状虫(Dirofilaria immitis)の伝播経路に関しても同様に解明した。以上の結果は,園館の特性を活かし,関係者の全面的な協力を受けた成果であり,今後も年間を通した感染経緯,感染時の病原性や治療の検討など,希少種の域外保全へ向けた共同研究が期待される。
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