Abstract

漆の変質には光, 雰囲気 (空気), 温度および湿度の4つの要因があると考えられるが, 過去, 筆者らは, 4つの要因の内, 光に焦点を当て, 美術・博物館用蛍光ランプがもっとも劣化を抑制する光源であることを見いだした. そこで, さらに漆工芸品を安定に保存する環境を見いだすため, 本研究では雰囲気に着目した. すなわち, 酸素, 窒素および大気の3種類の雰囲気下で美術・博物館用蛍光ランプによる暴露試験を行い, 雰囲気が漆膜に及ぼす影響を追跡した. その結果, 外観評価である光沢変化および色彩変化に関しては, 酸素雰囲気下がもっとも変化を抑制した. しかしながら, X線光電子分光法による表面分析から, 酸素雰囲気下では, 表面酸素量が急激に増加するとともに, 硬化も促進された. このことから, ウルシオールの酸化重合が非常に早く進展し, 早い段階で漆膜の硬化がかなりの段階に達するため, その後の暴露試験における外観変化が少なくなると考えられる.

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