Abstract

われわれは頸部外傷後の嚥下障害に,輪状咽頭筋切断術が非常に有効であった1症例を経験したので報告した。症例は65歳男性,主訴は,頸部痛と嚥下障害。バイク運転中自動車と接触,左側頭部および左頸部を打撲した。事故後1年,頸部痛,嚥下障害が持続するため,整形外科受診,頸椎CTおよびミエロCTにてC4のすべり症とC4/5とC6/7において脊椎管の狭窄と診断された。頸の動作による痛みと固形物に対する嚥下障害の訴えが強く,2001年6月当科受診となった。間接喉頭鏡では,下咽頭レベルで咽頭腔の前後径の短縮が認められた。喉頭斜位を認めるも,声帯に器質的疾患はなく反回神経麻痺も認めなかった。頸部CTにて頸椎の軸の不整と喉頭斜位を認めた。食道透視で咽頭期でのバリウムの停滞と食道入口部の筋の弛緩が不良であった。頸の動作による痛みも両側の上喉頭神経部に一致することから,外傷による咽頭神経叢の障害が迷走神経の機能異常を引き起こしている病態を考え,2002年5月13日両側上喉頭神経内枝切断術と輪状咽頭筋切断術を施行した。術後第1病日より,頸部痛は消失した。嚥下も徐々に改善した。術後2週間での食道透視では食道入口部の十分な筋弛緩が得られている。術後1カ月で患者は固形物が嚥下できるようになった。術中術後に合併症を認めなかった。咽頭期の嚥下に関する中枢は延髄であり,求心路は第7,9,10脳神経であり,遠心路は第9,10,12脳神経とされる。輪状咽頭筋の収縮・弛緩では頸部の交感神経の関与する説と,迷走神経が主体とする説がある。今回の症例では頸部外傷で咽頭神経叢が障害され迷走神経の症状が出現したのと,頸椎の脱臼による咽頭腔の構造の変化が嚥下障害の原因と考えられた。

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