Abstract
心筋梗塞や脳梗塞に代表されるアテローム血栓症の多くは,動脈硬化性プラークの破綻による血栓形成によって発症する.筆者らは病理学の立場から,アテローム血栓症の発症機序の解明に取り組んできた.プラーク破綻部の血栓は,健常動脈と異なり,血小板に加えて多量のフィブリンから成る.これはプラーク内のマクロファージや平滑筋細胞が,動脈硬化の進行に伴い組織因子を高発現するためで,プラークの組織性状や破綻の様式(破裂,びらん)によって血小板とフィブリンの度合いが異なることを見出した.これらの所見を踏まえて,ヒトの病態を反映しうるアテローム血栓症の動物モデルを作成した.プラーク内の組織因子は,CRPをはじめ多くの炎症関連因子やプラーク内出血などに起因する酸化ストレスによって誘導される.加えてプラーク内の低酸素環境も組織因子を強く誘導すること,これに対する細胞内代謝変化が血栓形成能と関連することも明らかにした.また組織因子は,VII因子とプロテアーゼ活性化受容体を介して平滑筋細胞の遊走など,凝固反応以外の生理作用も有し,プラーク形成の促進にも寄与することを見出した.血小板の活性化では,進行した動脈硬化巣ではecto-NTPDase/CD39が減少し,CLEC-2の生体内リガンドであるポドプラニンの発現による活性化亢進が認められる.一方,プラーク破綻は無症候性(血栓が小さく非閉塞性)のものが多いことから,破綻部における血栓の増大機序に着目し,血栓の増大には,プラーク自体の血栓形成能と破綻の程度に加えて,血流の状態,内因系凝固反応,VWF/ADAMTS13などが寄与することを示した.またXI因子は,その活性阻害により,出血時間の延長なく血栓の増大を抑制することを見出し,新たな抗血栓薬のターゲットとなることを報告した.
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