直腸粘膜脱症候群の経過観察例の検討

Abstract

直腸粘膜脱症候群（MPS）を経過観察し，その臨床的および内視鏡所見につき検討した。対象は1986年4月より当院でMPSと診断され，内視鏡的に経過観察された8例である。その結果，①男女比は4対4，年齢は18-72歳で，平均年齢は38.1歳であった。②主な臨床症状は，下血・粘血便6例（75％），貧血および肛門痛が各々1例で，排便習慣は便秘4例（50％），頻回便1例（12.5％）。下剤・摘便・浣腸の使用は4例，“いきみ”の習慣は全例に認められた。病悩期間は最低2ヵ月から最高40年と幅があった。内視鏡による経過観察は最長81ヵ月から最短4ヵ月であった。③診断時の内視鏡所見は潰瘍形成4例，潰瘍形成＋ポリープ2例，ポリープ状の隆起2例であり，主に肛門縁より10cm前後の直腸前壁に病変は認められた。④“いきみ”の禁止を主として，緩下剤などで排便習慣を是正した治療を行い，経過観察した8例中7例で潰瘍・びらんの縮小，瘢痕化，ポリープの縮小が内視鏡的に観察された。直腸脱の1例に対してRipstein手術が行われた。以上，MPSの成因の大きな因子である“いきみ”の禁止によって潰瘍，びらんの改善が認められ，この効果は内視鏡による経過観察で確認された。