Abstract
アリやミツバチ,シロアリなどの真社会性昆虫は,コロニーメンバー間の分業を特徴として,様々な環境下において生態学的成功を実現している。コロニーは生殖を担う生殖個体と,それ以外のすべての作業を行う非繁殖の労働個体(ワーカー)による2つのサブグループで構成されている。 さらに,ワーカーの間でも労働に関する分業が生じており,ワーカーはコロニー内で異なる仕事に従事している。ワーカー間の労働分業は社会進化と密接に関係しており,分業の維持機構は個体レベルからコロニーレベルまで幅広く研究されている分野である。本総説では,労働分業の維持機構に関する最近の研究成果をまとめて紹介する。特に,ワーカーの行動可塑性が集団レベルの表現型としての分業をどのように形成しているかに注目して議論を進める。まず,分業を維持する2つのメカニズム,すなわち齢差分業と柔軟なタスク変更を説明したのち,分業を定量的に評価するための方法を紹介する。次に,ワーカーの意思決定に関わるタスクの反応閾値がどのようにタスクの遂行と関係するのか説明する。次に,分業の生理的基盤について,特に幼若ホルモンとビテロジェニン,ビテロジェニン関連遺伝子に着目して知見をまとめる。また,分業を維持する上で重要な要因となるワーカーのタスク移行のメカニズムについて議論する。最後に,社会性昆虫における分業に関する研究の今後の方向性について述べる。
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