Abstract

縄文時代晩期に属する盤状集積葬の特徴と意義を論じるため,愛知県保美貝塚の盤状集積2例(1号集積人骨87標本,B集積人骨52標本)について基礎データを示し,同貝塚出土の個体埋葬人骨31体と比較した。具体的には盤状集積人骨群の全標本について再鑑定を行ない,最小個体数,部位構成,年齢構成を求めた。また両盤状集積で最も多く保存されている大腿骨を用いて性構成を推定した。性別の判定に当たっては,寛骨の形態特徴により性別が決定された個体埋葬人骨群において基準を設け,それを盤状集積人骨群に適用した。中でも大腿骨骨幹中央部の断面積が性別判定の有力な指標となり得ることが判明し,本研究においては性構成推定の確度の向上に貢献した。保美貝塚の盤状集積葬の骨構成については,保存部位が下肢主要長骨に偏っていること,1号集積には14個体以上(成人男性4体,成人女性6体,成人性別不明1体,幼若年3体),B集積には6個体以上(成人男性3体,成人女性2体,幼若年1体)の人骨が含まれていることが明らかとなった。また,盤状集積葬と個体埋葬の男女それぞれについて形態特徴と力学的な頑丈さを調べたところ,両埋葬人骨群間では大腿骨のサイズや力学的な頑丈さに明確な違いが見られなかったが,盤状集積人骨群の男性大腿骨が有意に柱状性を示した。盤状集積葬の時代的地域的分布の偏りと本研究における部位構成と個体数情報は,盤状集積葬が意図的な再発掘と再葬に基づいていたことを示唆するものである。柱状性の発達した男性大腿骨が本盤状集積で卓越している理由は幾通りか考えられるが,一つの解釈として,生前に特定の社会的地位や生業に属していた集団,もしくはある血縁集団に対して盤状集積葬が適用された可能性が考えられる。

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