Abstract

アイヌの人々の経済的,社会的地位は様々な福祉対策などがおこなわれて以降今日にいたってもなお,和人のそれと比較して低いままである。本稿ではその要因を,アイヌの人々の教育と職業階層の形成過程に注目し,明らかにしようとするものである。特にその際,アイヌの人々に特有な職業からなる「アイヌ労働市場」に注目する。 アイヌの人々の大学進学率は今なお和人より低く,また高校,大学とも中退率が高い。アイヌの人々が進学を断念する,あるいは学校をやめてしまう理由は,大きく「貧困・経済的理由」「勉強嫌い・学校嫌い」「差別」「親の意向・家庭の事情」の4つに分類できる。そして,学校からの離脱を容易にしてしまう背景にあるのが,アイヌ労働市場である。アイヌ労働市場は「民族型」,「地域型」に分類され,さらに民族型は観光型と行政型に分類できる。これがアイヌの人々に高い学歴を必要としない職を提供している。アイヌ労働市場はセーフティネットとしての役割のほか,アイヌとしての誇りを喚起するといったメリットをもつ一方,多くが低賃金,不安定,重労働で時に露骨なアイヌ差別に直面させるといったデメリットも持っている。近年,アイヌ労働市場はその影響力を弱めており,それが地域によっては雇用の不安定化を招いている一方で,アイヌ労働市場に頼らないがゆえに経済的地位を向上させる層も表れているなど,新たな局面を迎えている。

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