Abstract

家庭内での頭部打撲という外傷機転にもかかわらず心肺停止となり,30分以上の蘇生に不応性で死亡した小児において,死亡確認の前に原因検索目的でCT撮影を行い,その画像を根拠に司法解剖を施行して虐待が明らかとなった症例を経験した。症例は2歳5か月の男児。身長83cm,体重10.2kg。既往に精神運動発達遅滞の指摘,汎発性腹膜炎の手術歴,肝障害での入院歴あり。起床時にぐずる児の肩を押したところ壁に頭部をぶつけてぐったりした,との救急要請。救急隊現着時にショック状態,車内収容後に心停止となる。来院時も心肺停止状態で標準的な心肺蘇生に不応性であった。超音波で受傷機転と一致しない心嚢液貯留を認め,原因検索のためCT検査を行ったところ,頭蓋内に異常はなく,心嚢液貯留と肝門部から膵周囲の液貯留を認めた。死亡確認後も体表上明らかな外傷は認めず,検視でも事件性は低いと判断された。しかしCT所見が臨床経過と合致しないため司法解剖を要請した。その結果,胸腹部の鈍的外傷を示唆する所見を多数認め,膵破裂と出血が主な死因と判断された。本症例では,比較的柔らかい加害者の足や踵などによる外傷のため,内部に致命的損傷があったにもかかわらず体表上明らかな致命的外傷の所見は認められなかった。患児の既往や基礎疾患も死因特定を難しくし,担当医師の診察,および刑事調査官の検視にても事件性は低いと見受けられた。もしCTを撮影していなければ死因不詳で扱われた可能性もあった。死因特定のための死後CTは多くの病院で施行されている現実があるにもかかわらず,費用や倫理面の問題があり現行では日常的に施行することが難しい。少なくとも監察医制度がない地域においては,異状死体の死因検索のための死後CTのシステム化が望まれる。CTを含めた情報収集は解剖実施を促進し死因究明に役立つと考えられる。

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