Abstract
当院では一側性声帯麻痺や声帯萎縮による声門閉鎖不全に対する声帯内方移動術としてリン酸カルシウム骨ペースト (BIOPEX-R) を用いた声帯内注入術 (声帯内BIOPEX注入術) を行っている。今回,当院で本術式を行った症例の術前後における誤嚥の自覚症状および多角的所見について検討した。2004年5月から2015年7月の11年3カ月間に当科で声帯内BIOPEX注入術を施行した一側性声帯麻痺および声帯萎縮症例は97名のべ112例であった。声門閉鎖不全以外に明らかに誤嚥をきたす病態があると考えられた22例を除外し,79名90例を対象とした。誤嚥の自覚症状については,飲水のむせの頻度を5段階に分類する「むせの頻度スケール (five-point Choking Frequency Scale) 」を作成して評価した。他覚的所見については,嚥下造影検査 (VF) の動画記録から8 point scaleを用いて評価した。術前に飲水のむせの自覚症状があった症例は90例中57例であった。そのうち,術後にむせの頻度スケールが改善したことを確認できた症例は57例中49例 (86%) であった。術前後ともVFを施行した症例は12例で,術前VFの結果誤嚥を認めた10例は,術後に全例誤嚥消失を確認した。声帯内方移動術は反回神経麻痺による声門閉鎖不全の誤嚥に対する外科的治療として有用である。
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