保存的加療で軽快した孤立性内臓動脈解離の4症例(Four cases of isolated dissection of visceral artery relieved by conservative therapy)

Abstract

要旨 孤立性内臓動脈解離は比較的稀な疾患であるが，近年はmulti detector–row computed tomography（MDCT）などの診断デバイスの性能向上もあり報告例が増加している。今回，突然発症の強い腹痛を初発症状とし，造影CTで診断に至った孤立性内臓動脈解離を4例経験したので報告する。症例はいずれも40歳台の男性で，背景因子として高血圧が3例，喫煙歴ありが2例であった。初診時，腹痛の訴えは強いが腹膜刺激徴候は明らかでなく，嘔気下痢などの消化器症状を認めなかった。採血では，大動脈解離では感度が高いとされるD–dimerの陰性例が3例であった。腹部造影CTの撮影を行い，2例を上腸間膜動脈解離，2例を腹腔動脈解離と診断した。いずれの症例も腸管虚血は認めなかったため，厳密な血圧管理および抗血栓薬による保存的治療を選択した。治療開始後，疼痛症状は第3病日までに全症例で消失し，第7病日以降に行った経過観察の造影CTでは，すべての症例で解離血管の血流の改善を認めるという良好な経過をたどった。以上のように孤立性内臓動脈解離は稀な疾患であるが，腸管虚血を伴わない症例では保存的治療のみで良好な経過を得ることができる可能性が示された。中年男性に突然発症の激しい腹痛を生じた場合には本疾患を鑑別の一つとし，遅滞なく造影CTにて評価診断を行うことが必要と考える。