Abstract

要旨 下極型扁桃周囲膿瘍は特徴的な症状,局所所見が乏しく診断がむずかしい。このため,診断の遅れにより,喉頭浮腫,深頸部膿瘍・縦隔炎に進展すると致命的となることがある。症例は79歳の男性。数日前に歯磨き中に誤って軟口蓋を傷つけた。その後,咽頭痛,発熱が出現し,さらに呂律障害も出現したことから救急搬送された。来院時の所見では,左咽頭の軽度腫脹を認めたが,その他の異常は認めなかった。感染源精査のために実施した,胸部~骨盤部単純CTで左頸部の脂肪織濃度の上昇を認めた。追加で実施した頸部~胸部造影CTで中咽頭左側壁から喉頭蓋谷に及ぶ低吸収域を認め,下極型左扁桃周囲膿瘍と診断した。喉頭ファイバー検査で上気道閉塞の危険があると判断し,緊急気管切開・膿瘍の切開排膿を行った。下極型扁桃周囲膿瘍の頻度は比較的稀とされてきたが,高齢者では口蓋扁桃が加齢により線維化することから,下極の膿瘍形成が多いと報告されている。本症例でも,歯ブラシ外傷によりできた中咽頭の血腫に感染し,リンパ組織の存在する下極に扁桃周囲膿瘍を形成したと考えられた。高齢者では認知機能低下や脳梗塞等の既存疾患により,典型的な症状や所見を示さないことが多い。発熱で来院した高齢者では感染源として常に鑑別にあげ,積極的に精査をし,適切な処置を迅速に行うべきである。

Full Text
Published version (Free)

Talk to us

Join us for a 30 min session where you can share your feedback and ask us any queries you have

Schedule a call