ハチ毒中毒による多臓器不全に対し，集学的治療で救命し得た1例(Successful management of multiple organ failure due to wasp venom intoxication: a case report)

Abstract

要旨87歳の男性。ハチに全身117か所を刺され救急搬送された。意識レベルはGCS E4V5M6，呼吸数23/min，血圧105/51mmHg，脈拍89/min，腋窩温34.4℃であった。来院時アナフィラキシーを示唆するような明らかな皮疹を認めなかった。血液検査ではAST 3,468IU/L，ALT 743IU/Lとトランスアミナーゼの上昇を呈していた。血液ガス分析ではpH 7.226，乳酸値 12.7mmol/Lの乳酸アシドーシスを認めた。血液凝固異常も併発しており全身状態の悪化が危惧されたため，ICU入室とし輸液負荷・加温療法・抗アレルギー薬投与・凝固因子補充を開始した。翌日にはCPK 11,732U/L，AST 9,943U/L，T–Bil 7.2mg/dLと横紋筋融解と肝障害が急激に進行し，腎障害と凝固異常も増悪したことから持続血液濾過透析を開始した。集学的治療により第11病日には全身状態は改善したが，腎障害は遷延したためしばらくは血液透析を継続した。第29病日に腎代替療法から離脱し第42病日に後遺症なく退院した。多数箇所のハチ刺傷ではアナフィラキシーのみならず中毒による多臓器不全への進展を念頭に置き慎重に診療にあたる必要がある。多臓器不全では死亡例が多く，本症例のように多数箇所を刺された場合には早期からの集学的治療が救命のために重要である。