Abstract
1994年,クリントン政権による国民皆保険導入へ向けての医療システム改革案が廃案となった。その背景には,医療政策をめぐる利益者集団の問で国民皆保険に対するコンセンサスが得られなかったことが最も大きな要因の一つとして挙げられる。政府は1990年代の民間セクターにおける医療費抑制に対する著しい成果と医療の質を体系的に測定しようとする多くの努力を背景に,1997年の予算決議案をもって,政府主導型のヘルスケアリフォームではなく,むしろこうした民間医療保険システムの積極的な公的医療保険への導入に踏み切った。受益者が診療報酬によるインデムニティ型の伝統的メディケアやメディケアHMOの枠組みを超えて,POSやPPOといったマネジドケアプランを自由に選択することができる「メディケア+チョイス」や,受益者の医療サービスに対するアクセスビリティーの確保,プログラムの効率化,そして急増するメディケイドの支出に対する抑制策としてのメディケイド・マネジドケアは,そうした政府による政策努力の結果である。市場メカニズムを中心としたヘルスケアリフォームが進む中,国民皆保険の導入という当初の政策目標は風化しつつあり, あらゆる財に関して「大きな」政府の市場への介入を嫌う傾向にある米国社会において,短・中期的にみて平均的米国人が医療サービス市場を放棄し,政府主導の国民皆保険制度を受け入れるとは予測しがたい。したがって当面の米国政府に課せられた課題は,医療資源配分の効率化を徹底させるためのリスク調整システムを開発すること,医療の質の改善とその結果である生産の効率化に向けてその測定方法を確立すること,そして低所得者とその扶養家族,高齢者,慢性疾患をもつ患者等公的医療保障を受ける資格のない境界線上の人々に対する特別優遇措置を設定することであろう。
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