Abstract

断層,フラクチャー,ジョイント等の不連続が統計的にランダムに分布している“フラクチャー岩体”では,流体の流れに関してはフラクチャー部が,岩体の蓄える流体ならびに熱に関してはフラクチャーに囲まれた緻密な母岩であるマトリックス部が大きく寄与する。このような岩体からの流体・熱エネルギーの採取,化学種の移流拡散を評価する場合に,フラクチャー部のみならずマトリックス部も含んだ水理パラメータを把握することが必要であるが,圧力と流量を観測量とする従来の坑井テストでは浸透率の低いマトリックス部に関わるパラメータを精度良く決定することには限界があった。Ishido and Pritchett (2003) は界面動電現象による流体の流れに伴う電流が浸透率よりも空隙率の関数であることに着目し,圧力遷移試験時に坑井内で自然電位 (SP) の連続測定を併用することにより従来の坑井テストに比して高精度でマトリックス部の圧力平衡時間などの重要なパラメータを求めうる可能性を指摘した。 この可能性を実験的に検討するために,釜石鉱山のKF-1孔及びKF-3孔を利用して圧力遷移試験を実施した。KF-1・KF-3各々の孔内に,孔口から10-50m間に12個のAg-AgCl電極を挿入し,孔口には圧力計と流量計を設置した。また,根木ほか(1997)による以前の実験結果との比較のため,坑道沿い8箇所にAg-AgCl電極を設置した。このような測定システムを用いて孔口バルブの操作に伴う孔口圧,湧水流出量,各電極の電位変化を測定し,圧力遷移に伴う再現性の良い自然電位変化測定に成功した。孔口開放に伴う孔内圧の低下に対応して,観測孔内電極の電位の上昇と坑道壁(床)面電位の低下が観測された。これらの変化は流動電位に起因するもので,健岩部での自然電位変化から流動電位係数は-10~-15mV/MPaと推定された。フラクチャーゾーンでは健岩部とは異なる自然電位変化/圧力変化のパターンが捉えられ,KF-1, KF-3両孔周囲の岩体についてフラクチャーとマトリックス間の圧力平衡の緩和時間はおよそ1000~2000秒,フラクチャースペーシングにして1~4m程度と推定され,フラクチャー岩体の水理特性推定における坑井内自然電位測定の有効性が確認できた。

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