Abstract
中海・宍道湖の干拓・淡水化事業は, 1988年に地元を中心とする反対運動によって, 淡水化について事実上の中止に追い込まれた。干拓事業については1990年代半ばになって再び事業を進めるか否かが問い直されている。本稿では前者の淡水化事業が凍結されるまでの反対運動に注目し, その地域性及びその意味を明らかにする。反対運動は, 宍道湖でシジミ漁を営む漁民や生活環境・観光資源を重視する松江市民らを中心として, 広範に展開された。この一連の反対運動は, 関係する地域で一様な展開をみせたわけではなく, その発生や展開過程において顕著な地域差をみせた。それは, 鳥取県と島根県という行政領域の違い, 中海と宍道湖という直接の関心事となる対象の違い, 都市部と農村部という社会経済環境の違いという3つの視点からとらえることができる。環境保全運動は, 対象が, その存在する地域と不可分なことや, 運動の担い手がその地域の住民であること等のために, 地域性を反映したものとなる。今回の例では, 松江中心で運動が進んだために, 「宍道湖を守ろう」という性格の強い運動となった。運動を成功させるためにも, また, 当事者間の主張や利害関係を調整し, 問題を解決するためにも, 表面的な争点にとどまらず, 地域構造上の問題点に踏み込んだ環境問題の理解が求められる。
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