Abstract

海外において,既に尋常性ざ瘡(ニキビ)治療の中心的役割を果たしている外用レチノイドの一つ「アダパレンゲル0.1%(販売名:ディフェリン®ゲル0.1%)」が,2008年10月に発売された.本剤は,国内初の全く新しい作用機序のレチノイド様作用により,尋常性ざ瘡を治療する薬剤である.有効成分アダパレンは,表皮細胞の核内レチノイン酸受容体(retinoic acid receptor, RAR)に結合し,標的遺伝子の転写促進化を誘導する.正常ヒト表皮角化細胞のトランスグルタミナーゼ発現を抑制したことより,ケラチノサイト分化(角化)抑制作用を示すと考えられる.In vivoではざ瘡モデル動物であるライノマウスへの塗布で表皮面皰数の減少と,表皮厚の増加が示された.以上の結果から,アダパレンは表皮の顆粒細胞から角質細胞への分化を抑制することで,毛包漏斗部を閉塞している角層を除去することが推測された.国内臨床試験において,アダパレンゲルは,1日1回12週間の塗布で尋常性ざ瘡患者の総皮疹(非炎症性皮疹および炎症性皮疹)数を63.2%減少させた.最長12カ月間の塗布では,総皮疹数の減少率は,最終観察日で77.8%に達した.アダパレンゲルが非炎症性および炎症性のいずれの皮疹も減少させることは,これまでの抗菌薬治療では補えない特長である.アダパレンはレチノイド様作用を持つ故,高用量曝露時の催奇形性が懸念されたが,国内臨床試験ではいずれの被験者においても血中にアダパレンが検出されなかった(検出限界:0.15 ng/mL).よって,全身的副作用のリスクは非常に低いものと考えられた(但し,妊娠中の使用に関する安全性は確立していないため,「妊婦または妊娠している可能性のある婦人」に対しては,禁忌である).現在,アダパレンを含む外用レチノイドは尋常性ざ瘡治療の第一選択薬として海外で推奨されている一方,2008年9月日本皮膚科学会が策定した「尋常性ざ瘡治療ガイドライン」においても,主たる皮疹が「面皰」ならびに「炎症性皮疹(軽症から重症)」の場合,推奨度A(使用を強く推奨する)に位置づけられた.海外臨床試験で示された,外用ならびに内服抗菌薬との併用療法,さらには軽快後の寛解維持療法における有用性が評価され,同様に推奨度Aと認定されている.以上より,アダパレンゲルは,国内の尋常性ざ瘡診療において,新たな治療の選択肢として期待できる新規外用剤である.

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