1.正常牛にestradiol 6mg30日間投与した場合の精液性状は,DESを投与した時と全く同じように精液量の減少,精子活力の減弱,精子数の軽度の減少,奇形率の増加(主としてlooped tail)などの所見が得られた。また精漿の交換試験では明らかに正常精子の運動性を減弱させた。2.精管結紮牛にestradiolを1~2mg連日7日間投与して採取した精漿の性状は,投与期間が短かいために影響は軽度であったが,2mg投与では射精量の減少,精液緩衝能力の低下を認め,本牛精漿を添加した正常精子の生存性は低下した。3.去勢牛に試験期間50~100mgのtestosteroneを隔日に注射し,これにestradiolを5~10mg連日7~10日間投与し,1日のE:Tが1:2.5~1:10の割合になるようにした場合の精漿も前記同様,pHはアルカリ性に強く傾き,緩衝能力の減弱,果糖量の減少などが認められた。精漿の交換試験においてもEd投与未期および中止後の精漿は精子に対して阻害作用を呈した。4.これらの雄牛の精漿中無機質の濃度は,estradiolの投与によってNaの増加,Kの減少,Clは正常牛は減少,他は増加,Caについては正常牛は増加したが,他は著変がみられなかった。5.試験終了時に解剖して採取した副性器の組織所見では,末期testosteroneのみ投与のNo.3と,estradiolのみ投与のNo.4の問に若干の差が認められ,estrogenの影響が強かったNo.4では,前立腺部尿道のえ死,分泌物充満,尿道球腺の腺胞および排泄管内腔の分泌増加などの所見が得られた。以上のことからestragenが精巣における精子形成障害を起す以前のかなり早期に,副生殖腺の分泌物の性状に異常を誘起し,それが生産された精子に対して悪影響をおよぼすものと考える。
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