Abstract

実験的膀胱癌誘発剤であるN-butyl-N- (4-hydroxybutyl) nitrosamine (以下BBN) の0.025%水溶液をラットに経口投与し, 以後, 発癌に至るまでの胸腺リンパ球群の one-way mixed lymphocyte reaction (以下MLR) 系における応答能の変化を経時的に検討するとともに, 胸腺リンパ球の分化・成熟に関与していると考えられる胸腺ホルモン様物質 (thymosin fraction 5, 以下TF5) を仔牛胸腺より抽出し, その実験系に対する影響について検討した. また, 浸潤圧とpHを生理的に調整したアラビアゴム溶液を分離液とする不連続性密度勾配遠心分離法と粘着カラム法を併用して, 実験群および対照群 (BBN非投与群) のラット胸腺から3種のリンパ球サブセット〔lighter small lymhocytes (LSL), intermediate small lymphocytes (ISL), heavier small lymphocytes (HSL)〕を分離し, 各サブセットについて同様に経時的変化及びTF5の影響を検討した.1) 全胸腺小リンパ球 (whole small lymphocytes, 以下WSL) のMLR応答能は, 膀胱粘膜に肥厚や血管増生などの肉眼的変化を認めるBBM投与10週ごろから低下しはじめ, 95%以上に腫瘍を観察する20週ごろより著明に低下した.2) 胸腺小リンパ球中のMLRに応答する細胞は, HSLサブセットにより多く分離され, BBN投与に伴うMLR応答能の経時的な低下傾向は, HSLサブセットにおいて顕著であった.3) TF5でWSLを前処置すると, BBN投与10週~20週において低下したMLR応答能の修復が認められたが, 95%以上に腫瘍を観察する20週以後では, その効果は著明には認められなかった.4) BBN投与により低下したMLR応答能のTF5よる修復は, HSLサブセットでもっとも顕著であった.5) 以上の結果より, BBN投与ラット胸腺リンパ球の分化・成熟機構の乱れは, 胸腺皮質リンパ球のみならず, 胸腺髄質リンパ球においても生じているようであり, さらにMLR応答能賦与に関する胸腺ホルモン様物質の分泌異常が想定された.

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